自分のことを考えるな。遠くを見よ!
北海道である学校を訪問したときに、教頭に聞いたことがある。
「全国の学校を回っているのですが、北海道の先生たちは、とくに元気なことが
分かります。何が違っているのでしょうか?」
教頭は、答えられた。
「野中先生、それは先生たちが悩んだりしたら、すぐに車で海や山に行けて
そこに浸ってくるからですよ!北海道はそれがすぐにできるんですよ!」
確かに、確かに、そう思えた。
私は、50回ぐらい北海道に行っているのだが、言われることがよく分かる。
★
こう言われたとき、フランスの哲学者アランの『幸福論』(集英社文庫)を思い出していた。
「抑鬱病の人たちには、わたしはたった一つしか言うことがない。『遠くを見よ』
と。抑鬱病の人は、ほとんどつねに、読みすぎる人である。しかし、人間の目は、
そういう近距離のためにつくられているのではない。広々とした空間のなかで憩
うものだ。星や海の水平線をながめていれば、目はすっかりやすらいでいる。目
がやすらいでいれば、頭は自由になり、足どりももっとしっかりしてくる。から
だ全体がくつろぎ、内臓までしなやかになる。しかし、けっして意志の力でしな
やかになろうと試みてはいけない。自分の意志を自分のなかにさし向けたのでは、
なにもかもがうまくいかなくなって、ついに自分の息の根をしめるようになる。
自分のことを考えるな。遠くを見よ」
「自分のことを考えるな。遠くを見よ」なのである。
海へ行って、一日ずっと海を眺めて暮らす。
山へ行って、一日ずっと山の木々を眺めて暮らす。
スマホを止めて、ひたすら遠くを見る。そこに浸っていく。
そんな無為な時間をもつこと。
★
自宅の2階にあがる。
窓を開ければ、ずっと向こうに青々とした森が広がっている。
眺めていると、この森は、自分のために存在している、と思えてくる。
しあわせの時間。
ときには、コーヒーを飲みながら、しばし森を眺める。
最近のコメント