大谷翔平という存在~WBCが終わって~
WBCの大会を夢中で見た。
終わってみれば、やはり大谷翔平の存在が際立つ大会でもあった。
MVPももらっている。
アメリカでは、大谷を異次元の人間だと報道するところもあったのである。
私は、ずっと以前から大谷翔平の発言や行動に注目し、彼についてこのブログでも書いてきている。
それを改めて載せておきたい。
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●大谷翔平がMVPに輝いた(註2021年の大リーグ)。
満票だったということで、誰でもが認めた賞である。
素人判断ながら、大谷は、野球の何かを大きく変えてしまったのではないかと思われる。
この27歳の若者が、アメリカに渡って、これほどまでの偉業を成し遂げている。
私は、その原点は、高校時代にあるのではないかとずっと考えてきた。
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朝日新聞に、花巻東高校硬式野球部監督佐々木洋さんのインタビューが一面に掲載されている(2021/11/18)。
この先生が、菊池雄星選手や大谷翔平選手を育てておられる。
興味深く読んだ。
○「メジャーリーガーとして活躍する選手は高校生の頃から他の選手とはまったく違うのですか」という記者の問いかけに、佐々木先生は、次のように答えておられる。
◆「大谷を最初に見たときはびっくりしました。すごい速い球が投げられるわけじゃないんですけど、リーチが長くてとてもしなやかだった。ただ、すぐにメジャーリーガーになる姿を思い描けたわけではありません」
○「選手の才能をみるときのポイントはどこですか」
◆「身体能力は重要です。骨格は遺伝するので、親も観察します。更に重視するのは、親が子どもにどんな言葉をかけているか、他の親とどんなふうに接しているか。親の育て方や考え方で子どものマインドは変わり、伸びしろに差が出ると感じています」
家族についての発言は注目すること。
また、佐々木監督は次のようにも答えられている。
◆「私が重視しているのは、考え方のインストールです。部員たちには目的と目標の違いを伝え、目標達成のための数値を明確にし、こと細かく設定させます。大谷や菊池はこのときに、すでに目標としてメジャー入りをあげていました。何をするにせよ生きていくには、この考え方が欠かせない」
やはり、「目標達成シート」を教えたのは、佐々木監督だったということが分かる。
私は何度も言っているが、この目標達成シートは、マンダラートと言って、今泉浩晃さんが考え出したもので、それをマネしたものである。
(このマンダラートに興味ある人は、『考具』加藤昌治著 CCCメディアハウスを参考にしてほしい)。
このシートは、「考え方」を育てるものである。
だから、大谷は、高校時代からメジャー入りを目指し、目標達成へむけて、この「考え方」を鍛えていったことが分かる。
佐々木監督は、さらに続けて語っている。
◆「大谷のような身体や運動能力がある人間と、そうではない人間には必要な練習が違います。指導者は各選手に合わせた練習やアドバイスをしなければなりません。ときには野球に向いていない子どもに、他のスポーツや進路を勧めることもあります。これはあきらめではない。見極めなんです。子どもたちは高校を卒業した後、この競争社会で生き抜いていかないといけないのですから」
◆「私は渋沢栄一の『論語と算盤』が好きなんですが、野球選手にとって運動能力は算盤です。でも一生は使えない。だからこそ考え方や生き方といった論語の部分が大事です。社会は不平等だし、競争を強いられる。でも、勝負するフィールドは自分の発想で選べるし、変えられるのです」
○また、「大谷選手の活躍以外にもうれしいことがあったそうですね」という問いかけに、
◆「今春、野球部の卒業生が2浪して東京大学に合格しました。私は野球ではなく学力で生きていくべきだと伝えました。彼は東大という目標を掲げ、実現した。私は盆栽が趣味なのですが、指導者の仕事と似ています。盆栽は若木の時に枝に針金をつけて方向付けます。すると、かたちが整って価値を増して輝く。必要であれば針金を掛けたり、時には外したりする。器を変えれば、根が大きく張って、幹も太くなる。環境を整えて、子どもたちの意識を変えて意欲を促していくということです」
「子どもの才能を開花させるにはこうした強制が必要なタイミングがあります。その点で、最近の教育は自主性の重視に偏り過ぎているように思います」
◆
「大谷翔平」という存在を生み出したのは、素質と家庭環境が土台にある。
しかし、それだけでは「大谷翔平」は生み出されなかった。
やはり、高校で佐々木監督と出会い、目標を実現する「考え方」を教わっているのがキッカケになっている。
この出会いがなかったら、恐らく私たちは「大谷翔平」を見ることはできなかったであろう。
佐々木監督は「指導者で才能が開花するというのはうそだと思います。大谷や菊池を私が育てたとは恐ろしくて言えません」と謙遜されている。
しかし、きっかけだけは確かに与えられている。
佐々木監督から教わったマンダラートできちんと実現できる力を、大谷翔平はもっていたということになる。
冬は雪深く、実践練習がなかなかできない東北の地から大リーガーになり、二刀流という偉業を成し遂げた大谷翔平。
マスコミはさまざまな報道をしている。
今回の偉業は「すごい!」「コロナ禍でこんなうれしいできごとはない!」……ということで終わらせるにはもったいことだ、と思ってきた。
私は、彼が語る「ことば」に注目した。
注目した発言は、2つ。
1つ目は、起こってくる事態への対処の言葉である。
「良かったこと、悪かったこと、出てくることはとても幸せなことだと考えています」と。
「良かったこと」だけを考えていない。
「悪かったこと」を経験できる幸せを語っている。
ここが普通の人とは、違う。
普通の人は、「悪かったこと」が起これば不幸なことだと認識してしまう。そして、落ち込む。
しかし、大谷は、「悪いこと」は1つ上のレベルで経験している証(あかし)である、と。
チャレンジしている場所では、必ず「悪いこと」が起こるのであり、そのことで挑戦していく課題が見つかるのだと語っている。
これはすごい「ことば」である。
2つ目は、自分がやったことへの評価についての言葉になる。
「自分の評価は自分でしないと決めている」、と。
評価は、他人がするもの。自分ではしない、と。
これもすごい。
普通の人は、自分がすることへの評価を始終気にしている。
自分がやる一挙手一投足を気にする。
そして、「良かったら」舞い上がり、「悪かったら」落ち込む。
大谷は、出てきた結果で、小さな変化を見逃さない。
自分の評価をしないかわりに、自分の中の小さな変化に注目して、その課題をしっかり見つけようとしている。
(この2つについては、斎藤孝さんに教えてもらったことである)
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27歳の若者が、こういう境地に到達している。
私たちは、この若者から多くのことを学ぶ。
大谷翔平のこれからも、茨の道が続いていくであろう。
しかし、その道がどんなに困難であろうとも、自分の道を歩んでいくだろうことだけは確実である。
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