なんで数学を勉強するのか?(1)~チコちゃんに叱られる~
なんで数学を勉強するの?
この課題がNHKのチコちゃんの番組に出ていた。
この課題は、「味噌汁・ご飯」授業で算数本を出版するときに明らかにしている。
講座でも、先生たちに「算数と数学の違いは何ですか?」と問いかけて、明快な答えが返ってきたことはない。
多くの先生は、そんなことは考えたことがないというのが普通である。
数学で、一次方程式とか、因数分解とか、三角関数とかが、日常の生活で使われたという経験は誰でもがない。
だから、そんな日頃の生活で使わないものを勉強する必要があるのかと考えがちである。
東京大学先端科学技術研究センター教授の西成先生は、そのことについて明快な答えを出されていた。
算数と数学の違いは、学ぶ目的が違う。だから、名前も違っている。
「数学は、論理的思考力を身につけること。
算数は、日常生活で使う計算力を養うこと。」
私たちは、算数本の中で、次のように書いている。
「算数は、実生活で使えるツールを身につけさせることを大きな目標
にしています。」
「数学は、『数学』という学問を通して論理的に考える力を身につけることが大きな目標になります。だから、実生活でほとんど使わない抽象的な数字や形が対象になります。」
西成先生が言われたこととまったく同じ趣旨である。
数学の論理的思考力を身につけることは、自分の言っていることを相手に伝えるためにはぜひとも必要な力になると西成先生は強調されていた。
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問題解決学習をやっている先生(問とする)と、「味噌汁・ご飯」授業で算数をやっている私と、次のようなやりとりをしたことがある。
問 「味噌汁・ご飯」授業は、教科書通りの授業で、ちっとも思考する場面がないのですが、それでは思考力は身につかないのではないです
か?
問題解決学習では、最初の例題で「自立解決」をさせてじっくりと思考力をつけさせます。
私 それで思考力がついたかどうか、何で判断するのですか?
問 それは、……、「自立解決」のところでどれだけ子供たちが真剣に問題を解いているかどうかの状態とか、自立解決しての、子供たち
の 考えがどのように出されてくるかが目安になります。子供たちが算数に対してどのくらい意欲的になっているかどうかも大きな目安で
す。
とにかく、考える時間をたっぷり取るようにしているのです。
私 それで子供たちに、本当に思考力がついていると言えるのでしょうか。
私たちは、思考力は問題を解く過程の中で養われてくるという考え方です。だから、最初の例題で、きちんと解き方を身
につけて、類題、練習問題を解かせながら思考力をつけようという考え方です。
そして、その結果の単元テストで「知識・技能」は、どの程度身についたのか、「思考・判断・表現」はどの程度身についたかどうかを判
断します。
問題解決学習では、単元テストの結果はどう判断されているのですか?
問 もちろん、テストの結果も判断しますが、大切なのは、「自立解決」でたっぷり考える時間を取るということが最も大切なのです。
話は平行線のようになっている。
算数は絶対に思考力をつけなければならない、そのためには「自立解決」が絶対必要であると主張する先生と、教科書通りで教えて、その単元の学力がどの程度身についたのかどうかは単元テストで判断しようという私との違いである。
私は、「自立解決」で考えさせている時間をとっていることが、思考力がついていることにつながっているとは思っていない。
考える時間をとれば、即考える力がつくと思っていることは、あまりにも、短絡的な考え方だと考えている。
考える時間を取る→考える力ができる
こんな簡単な筋道で、思考力は身につかない。考える時間さえ保障すれば、考える力がつくなんていうことはありえない。
そんなことは、考えてみるとすぐに分かることではないか。
とにかく、科学的ではない。
実際に思考力がついているかどうかは、きちんと客観的にテストをして結果を出していかなければ、教師の主観的な判断だけで決められることではない。
★
具体的に、ここにその結果がある(詳しくは書けないが……)。
5年生のある単元(むずかしい単元である)で、問題解決学習で授業をされた先生(学級経営が上手で、授業も上手な先生である)のクラスと、「味噌汁・ご飯」授業で授業をしたクラスの結果である。
○み(「味噌汁・ご飯」授業)のクラスと、問のクラスとのクラス平均
の違いは、「知識・技能」では17.2、「思考・判断・表現」では、
7.57の差。2つとも、「み」の方が良い。
知識・技能は、これだけの差ができている。
○点数別で見る。
100~90…………問「知識」→8人、「思考」→9人
み「知識」→15人、「思考」→9人
50~0 ………… 問「知識」→5人 「思考」→8人
み「知識」→1人 「思考」→2人
思考力をつけることを主眼においた問題解決学習のクラスは、「味噌汁・ご飯」授業のクラスより思考力の差は、7.52も開いている。
50点以下の子供たちは、問のクラスは、思考力の問題で、8人もいる。「み」のクラスは2人に過ぎない。
○問のクラスは、0点から20点までの子供が3人いる。
これらの子供は、まったく学習についていけないはずである。
「自立解決」の時間は、ほとんど何も考えられない無為な時間になっているはずである。
○この結果は、授業上手な先生のクラスのことなのである。
ましてや、普通に問題解決学習をやっている先生のクラスや、初任者のクラスなどがどうなっているのか、もう明らかではないだろうか。
私は、今まで問題解決学習について、低学力児を引き上げるような授業をすることができないと主張してきた。
しかし、以上のような結果を見れば、思考力もつけることはできないと言っていいことになる。
(つづく)
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