座間の事件を考える(2)~24時間へとへとになっている~
いま、若者たちは、メールなどを絶えず交わし合っている。あいつはいくらメールを送っても返事をくれないから仲間はずれにしようなどと、わずか3,4人の付き合いであっても、そんな過酷な関係になっている。
この関係から外へは出られない。
出たらまったくの異邦人になって、一切の関係が断たれてしまう。
だから、ずっと友だちに気を遣い続けている。
24時間へとへとになりながら、メールをしまくっている。
この心理状況は、過酷と言う以外にない。
こういうやりとりは、次第に「内面」を肥大化させていく。
「あの人は、ああいう目線で私をみているけれども、ひょ っとしたら私を嫌っているのかもしれない」と、ささいな仕草や行動に過剰な意味を感じて、常にびくびくしてしまう。
このような肥大化が起こる。
★
この状況を、芦田宏直氏は、以下のように分析する。
ちょっと長くなるが、勘弁してほしい。
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二,三人だけど、すごく世界大に内面が肥大化しているから、外が共同性として見えない。外の者は人間でないみたいになる。人間がいないのではなくて、二,三人だけで十分人間的に疲れている状態なのです。24時間やりとりすれば絶対にそうなるに決まっています。寝る寸前まで電話で、24時間無料だから、受話器をオンにした状態でベッドの中で寝る。お互いがサーバー状態になってしまっている。ipad miniとは、ベッドの中で眠る寸前まで使うコンピュータなのです。あれなら寝落ちの顔に落ちてきても痛くない(笑)。
情報ツールが拡大したにも関わらず、リアルな交友関係が広がらなかったのは、24時間の「関係」が内面を異常に肥大化させたからです。内面の肥大化で携帯ツールの24時間化は二人三人の身近な友人関係にとどまったにしても、過剰な配慮や気遣いを脅迫的に要求する。たった二人三人であっても世界大の情報処理力を必要とする。だから外で見ていると二人三人に好かれるぐらい大したことがないではないかと思うけれども、二、三人が24時間内面を管理してるとすごくそれに力を取られてしまう。かつては恋人同士のきめこまやかな心遣いにとどまっていたものがいまではN個の友人関係に拡大していて、<恋愛>も<セックス>も面倒くさいと思う若者がいっぱい出てきているわけです。
なぜかと言うと、それは恋愛をいやがっているのではなくて、毎日毎晩同性同士、友達同士で恋愛みたいな関係になっているから、わざわざ男女関係に入るまでもない。一日でも中断すると、友達同士でも「冷たいじゃないの」と言われる。それで何の役にも立たない話をずっとしている。役に立つかどうかではなく、ずーっと話し続けているというのが大切なのです。だから家族や地域を越えた少数の共同体が他者の存在を極端に排除する。それは他者が不在なのではなく、内部に巨大な他者を抱えてしまっているからです。
(『努力する人間になってはいけない』芦田宏直著 ロゼッタストーン)
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家庭訪問で、中学のお姉ちゃんが、机の端にスマホをおいて、連絡があるごとにしょっちゅうそれに追われ、勉強に実が入らない姿を嘆いていた母親の心配を思い出す。
それは、こんなことだったのであろう。
こんなことを長く続けていると、へとへとになり、無気力になっていくのは目に見えている。
精神がやられていくであろう。
もし関係がこじれて、RINEの外にはじき出されたとき、全てが終わったようになるのではないか。きっとその時「死にたい」という呟きになっていくのではないか。
逮捕された白石容疑者は、調べに対し、9人の殺害を認めた上で「会ってみたら『寂しい』『話を聞いて欲しい』と言っていた」と供述。「本当に死にたいと考えている人はいなかった」と述べていると、朝日新聞は記している。
今、若者たちの内面に起こっているのは、こんなことではないか。
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