3年生担任で、初任の先生から相談を受けました。
以下の内容です。
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初めまして。教員として働き始めて4ヶ月が過ぎました、3年生担任の新卒、初任者です。
周りの先生方に助けてもらいながら、ここまで過ごして来ました。しかし夏休み明けの学級経営に不安があるため、ここにコメントさせていただきます。長くなりますが、読んでいただけると幸いです。
不安に思うきっかけは、ある保護者とその児童との関係です。
まず、その児童は学級が始まった時点で、素直さがなく、反抗的な態度が目立っていました。去年の先生からの引き継ぎの際には、仕切りたがりやでどうにか自分の思い通りにしようとする子だから気をつけたほうがいい、ということでした。実際、学力や体力などの力はあるのにはぶてて手を抜き、体力テスト等で力が発揮できない場面があり、どうしたら良いのだろうと感じていました。
夏休み直前に、この保護者の方からクレームの電話があり、電話での叱責、そして次の日が個人懇談でしたので個人懇談でも罵りを受けました。この時の内容はまた詳しくお話できればと思うのですが、指導に関することではなく、私への信頼についてでした。最終的には「うちの子供は先生のことを信頼していませんからね」と言われひどく落ち込みました。このことは管理職や学年主任、保健室の先生、その他の先生方にも相談し、かなり気持ちが軽くなりました。
そして先日の登校日のことです。その児童は「黒板に書く文字の書き順が違う、お母さんが言ってた」と言ったり、わたしのほうを見ながらちょっとした問題行動(全校集会で他の子にちょっかいを出す)などといった行動を取っていました。たった1日の登校日だしな…と思い見て見ぬふりをしようとしたのですが、他の先生方にこれは注意しておくべきだという助言をもらい、注意をしました。その時は改善しましたが、何度もちょっと何かして私の様子を見ている、という様子でした。
この子は夏休み前の授業中も「誰も手を挙げてなーい」とか「そんなん授業聞かんでもわかるわ」という発言を何度かしていたため、これが夏休み明けも続いて酷くなると、周りの子達もそれに乗っかってしまい、学級が崩壊してしまうのではないかと不安に思ってしまいます。このことを思うと気持ちも休まりません。
10月のあゆみ渡しの懇談も恐怖でしかありません。力はあるのに結果が出ていないので良い成績もつけられません。夏休み前の懇談の時にテストを見せながら話したのですが、このテストが成績に関わるなんてありえない、と仰っていました。それでも保護者の方と会うのは参観を除けばあと2回の予定なのでどうにかしようと思うのですが、やはり夏休み明けの児童については悩ましいものがあります。
夏休み明けにしておくべきこと、いや夏休み中に準備できそうなことがあれば教えていただければ幸いです。
投稿: 紫陽花
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この相談を受けて、恐らく多くの初任の先生が、こういう子供や親に悩まれているのだろうなあと思いました。
この児童の状態をまず確認しましょう。
①学期の最初から素直さがなく、反抗的であった。
②クラスの引き継ぎでは、「仕切りたがりやでどうにか自分の思い通りにしようとする子だから気をつけたほうがいい」と助言された。
③先生のことを信頼していない(親の発言)。
④授業中に、何かとマイナスな発言をして、雰囲気を盛り下げたり、授業の邪魔をしたりするマイナス行動を取る。
①②からは、前学年から問題行動を繰り返している様子が伺えます。担任からも注意されたり、叱られたりが多かったのでしょう。他の子供たちからも浮いていて、あまり相手にされていないのではないでしょうか。
今も紫陽花先生から「認められていない」ということを感じて③のような親の発言になっているのでしょう。
だから、④のようなマイナス発言、マイナス行動をとっているのですね。
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この児童がなぜこのような行動を取るのか、ということについて担任は、きちんとした理解がないと、どういう対応をとればいいかが分かりません。この児童の荒れの原理を知るということになります。
そのことについて考えていきましょう。
ちょっと理屈っぽい話になりますが、ついてきてくださいね。
アメリカの心理学者でマズローという人がいます。
このマズローの欲求階層説は、大学などで勉強されたりしたことがあるでしょう。
このマズローは、人間の自己実現の欲求は、まず「生理的欲求」や「安全欲求」から始まると言っています。
そして、そのあとに「所属と愛の欲求」(みんなの仲間に入りたい)と「承認欲求」(認められたい)が続きます。最後に、「自己実現欲求」がくるということです。
そうすると、この児童が今求めているのは、「所属と愛の欲求」(みんなの仲間に入りたい)と「承認欲求」(認められたい)ということになります。
心の中では、この2つの欲求をもっている(無意識的なところがある)のではないでしょうか。
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オーストリア出身の精神科医、心理学者でアルフレッド・アドラーという人がいます。アドラー心理学という名前は聞いたことがあるでしょう。それを作り上げた人です。
そのアドラーが、「人間の行為にはすべて目的がある」と言って、この「所属と愛の欲求」「承認欲求」が充たされないとき、子供は5つの作戦を取ることを示唆しました。
第1の作戦 「ほめて、ほめて」作戦
第2の作戦 「見て見て」作戦
第3の作戦 「悪い子だもん」作戦
第4の作戦 「復習するぞ」作戦
第5の作戦 「あきらめた」作戦
第1の作戦は、最初にどの子供も取る作戦で、ほめてもらうことや認めてもらうことで、クラスの中での自分の位置を確保することになります。
これが、この児童にとっては、うまくいかなかったのですね。この児童は、前々から常に注目され、認められていなければ満足しないという状況になっていたと考えられます。その意味では、特異な状態に育っています。多分、自分の家で、その欲求が認められないで常に不満足な状態できたのではないでしょうか。家庭的な問題が大きいと思われます。
第1の作戦がうまくいかなかったので、第2の作戦を取り始めています。
これが今の状態です。
建設的に何か行動しようとする気持ちがなくなり、とにかく注目を惹いたり、目立とうとしたりする行動です。教師の話に水をさしたり、いたずらをしつこくしたり、…などの行動です。
これがうまくいかなかったら、次には第3の作戦に行きます。教師が注意すればするほど不適切な行動をし、さんざんに反抗する行動を取り始めます。教師に権力闘争をしかけ、先生より強いことを証明しようと動きます。
もしかしたら、この児童は、第3の作戦に少し入っているのかも知れません。
この後は、さらに深刻になり、教師への復讐が始まったり、最後はまったくの無気力状態に陥ります。
でも、今の児童の状態は、第2の作戦を取っていると思った方がいいでしょう。
3年生なのですが、かなり賢く、自分の行動に対して先生はどのように反応するかを試しているところがあります。
ほんとうなら子供たちは、4年以降にこのような行動を取ることが多いのですが、すでにこの児童はその行動を取っています。
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さて、夏休み明けにどうするかになります。
はっきり言っておきたいのは、初任者の紫陽花先生にとっては、手に余る児童であり、手に余る保護者なわけです。
どんな初任者でも、うまく対抗できません。
だから、絶対に1人で抱え込まないで、学年主任、校長にすべて確認をとるという気持ちを忘れないでください。
きちんと毎日記録をとっておき、校長に報告できるようにしておいてください。
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そこで取るべき対応です。
もう一度、この児童の現状を確認しておきます。
①この児童が本来(無意識的にも)望んでいるのは、「所属と愛の欲求」(みんなの仲間に入りたい)と「承認欲求」(認められたい)と考えられる。
②①の欲求があるのは、自然なカタチであるが、この児童は家庭的に①が不足していて、異常に①の欲求を求めている。
③だが、満足させられないで、建設的な行動ではなく、反対にことごとく目立つという行動で、①の欲求を突きつけている(超やんちゃな子供がとる典型的な行動)
④担任は、注意し、叱るという対応を取る以外にない。でも、効果がなく、ますます児童はエスカレートしている。 ⑤それは、担任が自分のことを「認めていない」からである。
この現状を確認すると、原則的には2つのことをしなければいけないのです。
この児童は、アドラーの第2の作戦を実行しているのです。それは第1の作戦がうまくいかなかったからです。
実は、前々から(多分1年生の時から)第1の作戦がうまくいかないという経験をしてきていたはずです。だから、今回の場合も真っ先に第2の作戦から入っているのです。
A この児童をほめたり、認めたりすることを数多くする。
B この児童の良さ(とにかくちょっとでも良いところ)を全体の子供に紹介することで、みんなにも認められるという事実を作っていく。
私は、超やんちゃの子供たちを、クラスに包み込んでいく時には、この2つの方法を取りました(「包み込み法」と名付けています)。
第1の作戦を満足させるところに戻るわけです。
だが、繰り返しますが、初任者の先生たちには、このことはなかなかむずかしい。手に余るのです。
簡単ではないのです。
教えるだけでも大変なのに、こんなことを1人の児童にしなければならないのですから。
しかし、このことをできるだけやっていくということしか方法はありません。
自分ができることでいいのです。
A この児童は、今のところ「良いところ」「得意なところ」などを見つけることはなかなかむずかしいはずです。ちょっとした小さなことでいいのです。
見つけたら、その事実に対して「○○さん、これは素晴らしいね」「これはいいね」……と。声に出してください。
すぐには効果は出ませんが、粘り強く続けることです。
これを求めているのですから、効果はそのうちに出てきます。
ただ、敏感な児童ですから、教師が作為的にやっているということを感じたら反対に反発します。事実を見つけてほめることですよ。
B この児童が得意なところは、クラスに紹介してください。そして、模範演技でやらせるとかも考えてください。みんなに紹介されているだけでも、みんなの仲間に入れていると認識していくはずです。
C 今のところ、叱る場面は数多くあるでしょう。
見て見ぬフリをすることも大事です。
他の子供たちの邪魔にならない限りは見て見ぬフリですね。
しょっちゅう叱っているということだけは避けなければいけません。
D しかし、どうしても許せないことには、しっかりと真剣に叱ることです。その行為を叱るのです。
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10月に個人面談があることを心配されていますね。
また、成績をどうするかも問題ですね。
本来は力があるのに、わざといい加減にテストを受けていて悪い点数を取っているということ。これも目立つ行動の1つです。
本来の力があるわけですから、それをどう評価し、評定していくか。これは学年主任、校長の方と相談をして、しっかりと対応してください。
親との個人面談でも、その児童の良いところ、期待しているところなどを数多く伝えることです。
問題点は1つか2つ。「これからこのことについては、私の方でしっかりと指導をしていきますので、よろしくお願いします」と。
絶対に、親と諍いになる行為はしてはいけません。
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どうでしょうか。
無理をしないで、できることをやればいいですよ。
何とか1年間を凌いでください。
きっと大きな教訓(これから教師を続けていく宝物です)を得ることができるでしょう。
がんばってくださいね。
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