クラスが軌道に乗っているかどうか(4)~ハカセ方式~
2年生の初任者のクラス。
1年生の時、1クラスが学級崩壊になっていた。だから、その半分の子供たちがクラスにいた。
落ち着かないやんちゃな男の子たちが5,6人。
初任の先生(男性の先生)も、なかなか思うように子供が動かないので、ついつい叱ってしまうという毎日を過ごしていた。
4月、5月のことである。
叱ることでその場はなんとかなるのだが、また同じことの繰り返し。
どうしたものだろうかということになった。
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低学年の子供たちは、そんなに複雑ではない。
彼らは「その場、おもしろ、理想主義者」なのだと、私は名付けてきた。
その場その場で生きている「その場主義者」であり、おもしろいことが何より好きな「おもしろ主義者」であり、「理想」の旗を振るとほとんどがそちらへなびいていく「理想主義者」なのである。
だから、要するにこの3つで勝負をすれば、低学年の子供たちは担任についていく。
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初任の先生に提案したのは、「理想主義者」としての彼らの心情をターゲットにしようというものであった。
「個人目標達成法」としての「○○ハカセ」方式である。
むずかしくはない。
今クラスで困っていることをいくつかあげて、それができた子供を「ハカセ」にしようという試み。
早速その先生は、翌日「そうじハカセ」「聞きハカセ」「べんきょうハカセ」「きゅうしょくハカセ」「かたづけハカセ」の5つを作ってきた。
子供が思うように動いてくれないところのハカセである。
画用紙の上に「○○ハカセ」と書いてある。
そして、下には学級名簿が貼ってある。
「べんきょうハカセ」は、授業の始まりの時にちゃんと席について、机に教科書とノートと筆箱をそろえてあれば、「○○さん、とても良いですね。はい、勉強ハカセ1回!」と声をかける。
声をかけられた子供は、鉛筆を持って学級名簿の貼ってあるところへ行き、1つだけ○をつけるのである。
10コ○がつけば、「べんきょうハカセ」になる。
「野中先生、授業中に立たせていかせるのはよいのでしょうか?」と初任者の先生は問いかけた。
「先生、だから良いんです。良いことをした子供がみんなの前で歩いて行くのです。デモンストレーションをしているのですよ」と。
ただし、「そうじハカセ」だけは、掃除が終わってから○をつけさせなくてはならない。
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初任の先生は、最初こんなことでうまく行くとはとても信じられなかったと思われる。半信半疑での実践。
結果はどうなったか。
ほぼ1ヶ月で、みごとにクラスは落ち着いた。
校舎を回っている校長が驚いたほどである。
要する「○○ハカセ」という理想を示して、担任が「すばらしい、いいね、よくがんばってるね」とフォローを繰り返したに過ぎない。 そのために、少しの時間はかかるが、クラスはみごとに変身した。
あれほどちょろちょろしていたやんちゃたちも、きちんと席に着くようになったのである。
今まで繰り返していた「叱る」ことをほとんど何もやらなくて、
「Aさん、良いですね。はい、『○○ハカセ』1回!」とやっただけ。
これだけでぐんぐんクラスは落ち着いていったのである。
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これに気を良くした初任の先生は、後期には「音楽ハカセ」「しせいハカセ」「読書ハカセ」「ロッカーハカセ」「あいさつハカセ」「ぺろりハカセ」「しんせつハカセ」の7つを設定している。
どうしてもこの「ハカセ方式」は、真面目な子供たちが中心になっていく。
やんちゃな子供でも、がんばっていける「休みじかんハカセ」(外で元気に遊ぶ)「ぺろりハカセ」(給食を残さず食べる)なども入れるといい。
素晴らしいクラスができあがった。
3月の最後には、お楽しみ会でグループごとに自分たちでさまざまなダンスや演芸などを作り上げるまでに成長していた。
★
この「ハカセ方式」は、個人目標達成法と名付けている。
個人でがんばれば達成できる目標である。
4年生ぐらいまでは通じる。
「ハカセ」を「名人」と変えればいい。
「そんなものになってもたいしたことないや!」という声が出てきたら、この方式は続けられない。高学年では、こういう子供が何人か出てくる。
低学年でこの方式が成功するのは、冒頭で書いたように理想主義者としての心情にターゲットを絞り、「ほめて、ほめて、ほめまくる」からである。
こうしていつのまにか「学習規律」や「学級ルール」などを身につけていくことになる。
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