授業で過去問題など本末転倒(1)
全国の学力テストが終わった。
文科省の大臣が記者会見で、次のようなことを言っている。
★ ★ ★
国学力調査「授業で過去問題など本末転倒」 馳文科相
2016年4月20日23時32分
■馳浩文部科学相
全国学力調査について、私のもとに「成績を上げるため、教育委員会の内々の指示で、2、3月から過去問題をやっている。おかしい。こんなことをするために教員になったのではない」と連絡を頂いた。成績を上げるために過去問題の練習を、授業時間にやっていたならば本末転倒だ。全国各地であるとしたら、大問題で本質を揺るがす。
調査は、今年10年目。第1次安倍政権からの教育再生の柱だ。点数を競争するためではない。うわさには聞いていたが、直接現場から憤りの声を頂いたことはなかった。全国調査はしないが、心ある教員や教委のみなさんは、実際に何が行われているのか、文科省に報告を頂きたい。
私は今日、憤りをおさえながら話をしている。なんのために調査をやっているのか、胸に手を当てて改めて考えて欲しい。一握りの教委、校長、担任の振るまいかもしれないが、やってはいけないことだ、と申し上げたい。(記者会見で)
★ ★ ★
こんなことを言っている。
情報は今までも入っていたと思うが、あまりにもひどいのでこんな記者会見になったのであろう。
でも、文科省は対応が遅すぎる。
今頃こんなことを言ってどうするのだろうと思ってしまう。
★
多くの教育委員会で、過去問題集の練習をやっている。
今では、やっていないところを探し出すのに苦労するのではないだろうか。
ある県の学力テストが急に上がったのは、秋田県に職員を派遣して学んだというのが教育長の答弁であった。ところが、何のことはない、委員会の指示で、春休みに過去問集を宿題に出し組織的に取り組ませた(そのように私は内々に聞いた)。
その結果で成績をあげたのである。
ある市は、6年の授業の始まりから学力テストのある日まで、毎日1,2時間過去問の練習に当てている。
それも委員会が組織的にやっている。
その結果、良い成績を上げているという。
1ヶ月の間は、「学級づくり」に精を出さなければいけない時間なのに、こんな「ばかげた作業」をそれぞれの学校に課している。
こんな例をあげたら、数限りない。
事前に過去問を、ほとんどのところでやっている。
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過去問の練習をやったら効果があるのか。
確かにある。
だから、やっている。
急に成績を上げたところは、ほとんどが過去問を組織的にやっていると考えた方がいい。
なぜ上がるのか?
高校や大学の入試で、試験対策として過去問をやった経験があるのではないだろうか。
「傾向と対策」。
そんなに大きく問題は変えられない。
だから、過去問集をやっていれば「問題に慣れる」という効果は大きい。
もう1つ、分かってきたのは、認知心理学での領域固有性や文脈依存性というものである。
おおざっぱに言えば、問題を理解するのは、時と場所に大きく依存するということ。
また、問題の出し方や解答の仕方に影響されるということ。
だから、過去問で問題に慣れていれば、問題に対応できる状態ができてくる。
実際に教科書などで理解していたのに、同じ問題なのに、学力テストになったら間違ってしまうというのは、問題慣れしていない場合が多々あるからである。
★
そんなことなら過去問を練習させたらいいではないかということになる。
だから、どこでもやっているのであるが…。
確かに平均点はあがる。順位もあがる。
で、それは何なのだろうか。
得点は上がったが、子供たちの「学力」が上がったのか。
そんなことはない。
上がったのは、「得点力」だけだ。
要するに、入試用などの意味での得点が上がったというわけである。
子供たちの「学力」がほんとうに身についたわけではない。
順位や平均点を上げるという、ただそのための行動。
そのために、多くの授業を潰して、これに当てる。
「教育」の放棄である。
「周りがうるさいんで、方便としてやっています!」と。
こんな考えで、学力テストのそもそもの意義を逸脱し、方便に手を染める。
いつのまにかそんな方便が平気になる。
怖いことである。
文科省大臣の言葉をもう一度読んでほしい。
真っ当なことを言っている。
当たり前のことなのである。(続く)
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