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横藤雅人校長の式辞

  北海道大曲小学校の校長 横藤雅人先生の卒業式式辞がホームページにアップされている。
 横藤先生は、この3月で定年退職である。
 子供たちへ向けての最後の言葉。

 ★ ★ ★  
平成28年3月19日(土)  卒業式 式辞

 皆さん、卒業おめでとう。明るい日差しも皆さんを祝福しているようです。もうすぐ雪も溶け、校庭のコブシがまっ白な花を咲かせるのを初めとし、クロッカス、サクラ、ツツジ、チューリップと、次々に花が咲くでしょう。その中を、皆さんは制服に身を包み、中学校に通うのですね。胸を張り、希望を持って中学校に羽ばたいてください。

 本日の式には、北広島市教育委員会吉田孝志教育長をはじめ、たくさんのご来賓にお越しいただきました。誠にありがとうございます。

 さて、今、春の日差しを浴びてたくさんの木や草花が咲くでしょうと話しました。しかし、春になると花が咲くのは、よく考えると不思議なことです。例えば、皆さんが一年生の時に育てたアサガオは、毎朝、元気に咲いて皆さんを待っていましたね。どんな力があのアサガオの花を咲かせていたのでしょう。田中修先生という植物学者が、この力を調べるために、双葉をつけたアサガオを電灯をつけっぱなしの部屋に置いてみました。どうなったと思いますか?

 アサガオは、いつまで待ってもつぼみをつけませんでした。

 そこで、田中先生は、アサガオにいろいろの長さの「夜」を与えてみました。たくさんのアサガオの鉢を別々の部屋に置き、暗くする時間を変えたのです。すると、暗闇が連続して九時間を超えた部屋のアサガオだけがつぼみをつけました。

 他の植物についても調べてみると、ずっと明るくした場所では、どの植物もつぼみをつくらないことが分かりました。例えば、赤シソは十時間、ポインセチア十一時間三十分、イネ十二時間、キク十三時間…、と時間は違いますが、どんな植物も連続した暗闇の時間があって、はじめて花を咲かせることが分かったのです。花が咲かせるには光ではなく、暗闇が必要だったのです。

 さて、このことは植物だけのことでしょうか? 私は、そうではないと思います。
 人間も、後に活躍する人が、幼少期や青年期に必ず暗黒の時期を過ごしたことは、多くの偉人伝を読めば分かります。人知れず汗をかき、悔し涙を流さずに栄冠を手にするスポーツ選手も一人としていません。

 今、世の中は便利になり、避けようと思えば、あまり苦労せずに生きていくことができます。テレビやインターネットの中には、光に照らされた映像があふれ、それだけが価値あるのだと押しつけてきます。しかし、そのような光だけの世界は、人を本当に豊かにするのでしょうか、世の中に光を与える人間を育てることができるのでしょうか。

 実は、私自身、幼少期に母が病気がちで、あちこちの親戚に預けられて育ちました。日本中が貧しい時代でしたので、預けられた先では、食べるものもその家の子供たちと違って見劣りするものでした。そのことに文句を言って、強く叱られ、ご飯抜きになったこともありました。
小学一年の時に母が亡くなり、その後も親戚に預けられることが続きました。小学生ながら下宿住まいをしたこともありました。学校に通えない時期もあり、自分からサボってしまったこともあり、当然勉強もできなくなりました。やっとできた友達とも次々に別れなくてはならなかったせいか、人付き合いが苦手になりました。くじけやすい性格になり、よくいじめられもしました。中学生になっても、「お母さん、どうして死んじゃったの。」と一人で布団をかぶって声を殺して泣いたことが何度もありました。それは、私の暗黒の時間でした。

 ただ、こんな勉強も出来ず、くじけやすい私にも、時折優しく温かく声をかけてくれた人もいて、暗闇の中だからこそ、優しい光を本当に有り難く感じることもできました。

 このような子供の頃の経験は、教師になってから役に立ちました。家庭の事情で悲しい思いをしている子、いじめられている子の気持ちが、分かるような気がするのです。また、勉強が苦手な子に、どう教えればいいのかを真剣に考え、教材や教え方を開発することもできるようになりました。そして何より、どんなに辛いことがあっても、たとえ勉強やスポーツができなくても、誰もが願われて生まれ、生きていく価値がある存在なのだということを、自信をもって子供たちに伝えることができるのです。そして、それを伝えることこそが、自分のミッションなのだと信じ、今、ここでこうして皆さんの前で話しています。

 人は、誰もが気持ちのいいこと、楽しいことを求めます。しかし、それは常には叶えられません。きっと厳しい時間、ときには暗黒としか思えない時間が訪れます。でも、その暗闇の時間はあなたたちに強い芯と本当の優しさをくれるための時間になります。どんなに辛くても、決して生きることをあきらめてはいけません。「どうせ自分なんか」「どうして自分ばかり」とくさってはいけません。周りの人への温かい気持ちを捨ててはいけません。

 目の見えないはずの植物が、不思議に暗闇を知り、静かにつぼみを啓くように、皆さんの中にある力が、いつか必ず目覚め、静かに啓きます。東日本大震災で大きく傷つき、また、人と人が信頼し合えない空気が覆い始めているこれからの日本を支え、変えていくのは、あなたたちです。誇りと自信をもってがんばってください。

 最後になりましたが、保護者の皆様にお慶びを申し上げます。本日は本当におめでとうございます。お子さんは人生において最も多感な時期に入ります。子供たちが「暗黒の時間」に負けず、いつか花を咲かせる姿を、どうぞ信じて、少し遠くから温かく見守ってください。いつまでも「子供にあこがれられる大人」でいてください。そんな皆様の姿が子供たちを支えます。これまで本校にお寄せ戴いた御厚情に感謝いたします。本当にありがとうございました。そして、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

 さあ、卒業生の皆さん。羽ばたきの時です。胸を張って、飛び立ちましょう。でも、時には羽を休めたい時もあるでしょう。そんなときは、いつでもまた大曲小に寄ってくださいね。いつまでも私たちは皆さんを応援しています。
★ ★ ★
 植物は暗闇がなければつぼみをつけないという、刺激的な話はきっと子供たちや親たちに何かを残したのだと思う。

 この話は、『つぼみたちの生涯』(田中修著 中公新書)に載っていると横藤先生から教えられたことがある。

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