学力をどう向上させていくか(8)
学力をどう向上させていくか(8)
これまで書いてきた中で、「野中先生は点数にこだわりすぎるのではないか!」と思われた方があると思っている。
その思いはよく分かる。
私も若い頃点数化することに反対だったからである。
テストに点数をつけないで子供たちに渡し、間違いに気づかせることにエネルギーを注いだことがあった。
それでどうなったか。
子供たちの学力は向上したのか。
まったくそんなことはなかった。
かえって子供たちの意欲をなくしてしまった。苦い経験である。
★
反対に点数の威力を経験したことはかなりある。
漢字がまったく読めない、書けない子供。ひらがなも拾い読み。
そんな子が国語のテストで100点。5年生の子供。
もちろん、テストの時は私の教卓のそばに机を持ってこさせて、読めない問題は教えてあげる(答えは絶対教えない)ということにしていた。
つい最近も、私の知り合いの校長の学校でのこと。
「あるクラスでは3年まで0点ばかりを算数でとっていた子が
70点をとれるようになり、保護者が大変喜んでいました。
保護者から出た言葉は、『やっと、普通の子になりました』というものでした。」と。
点数の威力は大きいのである。
今度コラボする福山憲市先生は、5年生の「割合」の授業(専科の算数授業)で、単元テストは99点以上取らせられていた(140人以上の子供たち)。130人以上は満点なのである。
小学校の算数で「割合」が最も難しいのは教えたことがある先生ならみんな知っている。
普通の公立小学校の子供たちに、こんなことができることは奇跡に近いことである。それを福山先生はやっている。
誰でもがどんな指導をしたのだろうかと思うだろう。
(プレジデントFamily 秋号にそのアイデアは紹介されている)
この実践も、点数の威力があるから「すごい!」ということになる。
★
ただ、気をつけておきたいのは、「得点力」と「学力」は違うことである。
これを勘違いすると、点数偏差値のワナにはまり込んでしまう。 第1回目に書いたことだが、今全国学力テストで各都道府県が順位をあげることに躍起になっている。
そのために、「過去問題集」(過去問という)を作って、組織的に練習をさせている。もはやどこでもやっていることである。
それは「得点力」をあげるということでしかない。
いわゆる試験対策にしか過ぎないのである。
この事実を知っているのだろうか、と思ってしまう。
「学力」が向上しているわけではない。
単なる傾向と対策にすぎない。
これを知っておかなくてはならない。
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「得点力」と「学力」の違いについては、次のように考えておいた方がいい。
★ ★ ★
英語や国語を例に取ると、たとえば英文なり和文なりときちんと読み取る力は学力です。しかし、「次の選択肢のうち正しいものはどれか、選べ」といった設問を解く力は得点力です。そして、学力と得点力とは無関係ではありませんが、明らかに別の能力なのです。その証拠に、元の文章がきちんと読めていなくても(実際読めていない受験生の方がはるかに多い)テクニックで正解できるし、逆に読めていたからといって設問に正解できるとは限らないのです。
ですから、作家が自分の小説を元に作られた入試問題を解いてみたら合格点に達しなかった、ということがいくらでもありうるのです。しかし、だからといってその作家が学力がないとはもちろんいえません。要するに得点力がなかったのです。
★ ★ ★
中山治さんは『親子で伸ばす学習戦略』(宝島社)で以上のように書いている。
そして、中山さんは付け加えて、
「学力は二一世紀を生き抜くためにますます重要になってきます。しかし、得点力も受験、進学に絶対必要です。ではどうしたらよいかということになりますが、答えは簡単です。」と
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そして、次のように答える。
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学力養成を主軸とし、得点力を方便として利用する。
……
…、これまでの説明で日本の社会が学力偏重だなどというのはじつは大うそで、本当は徹底した「得点力偏重社会」「学力軽視社会」だということがおわかりいただけると思います。学力は一方では勉強することは悪いことという風潮によって(これは学力と得点力との混同によって生じたものと思われる)、他方では記憶ゲームの浸透によって、根底から切り崩されつつあるのです。
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私たちは、きちんと「得点力」と「学力」の違いを区別して使いたいものである。
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