学力をどう向上させていくか(9)
この学力向上の項もいよいよ最後になった。
最後にどうしても書いておきたいことをメモしておこう。
これも、西川純先生の『学力向上テクニック入門』(明治図書)から学んだことである。
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私たちは全国学力テストなどで「どうしてこの子がこんな問題を解けないのか?教科書では教えていることだし、その時にはきちんとできていたはずなのに!」という経験をしたことがないであろうか。
私はしばしばある。
学力テストの問題はそんなにむずかしい問題でもないのに、通過率が極端に低くなる問題がある。
私の認識では、出題者がわざと問題をひねって「引っかけ問題」にしている、そこに子供たちはひっかかる、平均点を下げるために作られている問題だと思っていた。
その時の私の認識は次のようなこと。
「基礎・基本の学習理解ができていれば、その学習理解でさらに発展した応用問題も対応できる」と。
こういう認識が間違いであることを、西川先生から教えられる。
今、認知心理学の研究成果は「一般的な知識や能力というのはなくて、我々の能力の大部分は、それぞれの状況や場所などにものすごく依存する」ということ。
認知心理学では、このことを「文脈依存性」「領域固有性」と言っている。
つまり、教科書で学んだことが、学力テストでの同じような問題に適用するかというと、そうはいかない。
「問題の作成の仕方」や「解答の仕方」に左右されるというのである。
子供たちは、同じような問題も、ちょっと問題が違ったり、解答の仕方が違ったりしただけで、まったく違う問題として受け取ってしまうのである。
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たとえば、26年度の小六の国語の問題で、接続語を使って1文を2文に分けて書くという問題が出た。(ある都道府県では、正答率23.6%というからもっとも正答率が低かったことになる)
<問題>
「新しく委員になった五年生は、放送機器の使い方が分から
なくて不安そうにしていたので、ぼくは、これまでの経験を
生かして、いろいろなことを教えてあげたいと思った。」
このように直せばいい。
「新しく委員になった五年生は、放送機器の使い方が分からな
くて不安そうにしていた。だから、ぼくは、これまでの経験
を生かして、……」
<解答>は、接続詞の前後の7文字を書き抜くという問題。
□□□□□□□。だから、□□□□□□□~
たいしてむずかしい問題ではない。
だが、こんな問題を授業では扱わない。このような7文字で書き抜くという答え方をしたこともない。
子供たちにとっては、まったく新しく、今まで勉強したこともない問題になっているのである。
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また、私たちの「味噌汁・ご飯」授業研究会のメンバーの一人が、このような経験をした。4年生少人数指導で、3つのグループに分かれて、下位のグループの指導をしている時である。
次のような問題。間違いやすい問題であるので、丁寧に指導をしたという。
「4クラス全員で遠足に行きます。1クラスの人数はどのクラスも36名です。全員がバス3台に分かれて乗ると、1台に何人ずつ乗ることになりますか。」
しかし、単元テストで、次のような問題が出た。
「クッキーが入った箱が6つあります。1箱に、クッキーは30個入っています。全てのクッキーを9つの皿に分けます。1皿にはクッキーが何個ずつになりますか。」
子供たちがクッキーに変わっているだけで、問題の種類や答え方もまったく変わらない。しかし、間違った子供は、13名中7名。
ほぼ半数が対応できなかったという。
数と文言がかわっただけでこうなるのである。
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認知心理学では、同じような問題でも、状況や場所の違いによってまったく違う問題になってしまうという。
では、どうしたらいいのか。
さまざまな問題に当たらせ、慣れさせていく以外にないわけである。
全国学力テストなどを、学習塾に通っている子供たちがよくできるというのは、結局塾でさまざまな問題に慣れているからなのである。
また、学力テストの上位県は、こんなことは当たり前のこととして対応しているはずである。
今までの私たちの考えを改めていかなければいけないと痛感する。
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