いじめ自殺事件(2)~学校はいじめに闘えない~
2011年10月11日に、滋賀県大津市で中2年いじめ自殺事件が起きた。
この事件で、教育委員会や学校の隠蔽体質が明らかにされ、翌年いじめ防止対策推進法が国会で可決された。
この事件で中2男子生徒が直面していたのは、暴行、脅迫、強盗、重過失致死罪であった。
この事件を受けて、1994年に愛知県西尾市の中2大河内清輝君(いじめ自殺事件)のお父さんは次のようなコメントを残されていた。
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大津の事件を見て、学校現場がずっと変わっていないことが分かりました。アンケートでいじめの有無が分かると本当に思っている。言えない子がいるということ、死ぬほどに思い詰めている子がいるということを、なぜまだ分からないのか。
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この事件を受けて、Y新聞から取材を受けた。
実際に記者に会っての取材である。
その時に、その記者は新聞記事を見せながら指摘した。
「野中先生、なぜこんなひどいいじめが行われているのに、学校や先生たちは対応できないのですか?」
おそらく日本中の人たちが疑問に思っていることをぶつけたのであろう。
その時、私が答えたことは次のこと。
「学校も教師たちも、いじめに対してさぼっているわけではないですよ。一応は対応しているのです。」
「しかし、あまりにも先生たちは忙しすぎる。
このいじめ対策も、もろもろの仕事の1つなのです。
先生たちは、何が大事で、何が大事でないかが分からなくなっていて、目の前の蠅をただただ追っているだけなのです。だから、いじめ対策も、部活指導も、授業も、生徒指導も、……とにかく早く済ませて次に行かなければ終わらないのです。雑務なんです。だから、こんなことになるのです。」
記者は、この私の答えが腑に落ちなかったのであろう。その表情に読み取れた。
新聞取材は、あらかじめ自分たちの結論を持って、取材をする。
その結論に沿うように答えなければ、記事はボツになる。
だから、その時の私の答えもボツになった。
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学校の教師たちの現場での忙しさに対する「想像力」が、ほとんどの人たちには働かない。
ある新聞記事の読書の欄に、次のようなものが載った。
元高校の教員の方である。
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先日中学校の若い先生方とお話しする機会があり、私は学校に居る時間の長さに驚き、「一体何をして」と尋ねました。すると、放課後のクラブ顧問、教科・学年の会議、ノート点検、クラス便りの作成、欠席生徒への連絡、保護者の帰宅を待っての給食費の催促、などなど。私は聞いていて悲しくなりました。生徒の具体的な話題が一度も出なかったのです。
夜遅くまで明るい職員室で熱心に仕事する先生方。体罰・いじめでは担任は当事者との話し合い、調査書作成、保護者からの相談と、年々心も時間も余裕がなくなっているようです。本来の先生の姿は「授業に心血を注ぐ」「生徒と向き合う時間を持つ」が基本だと思います。先生方にこそ心身ともにゆとりが必要ではないでしょうか。
(朝日新聞2013,2.4)
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中学校の教師は、世界一長い時間仕事をしている。統計上、そのように出ている。
その中で、繰り返すが先生たちは、「何が大事で、何が大事でないかが分からなくなって、目の前の蠅を追っているだけ」になっている。
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大津のいじめ自殺事件で、何がはっきりしたのか。
●いじめに対して学校は闘えない
そのいじめに向かって闘っていくはずの学校ぐるみの防止シス テムが機能 しない。もはや、教師個々の個人的努力ではどうにもできない状況に追いやられている。
おそらく、今回の岩手のいじめ自殺事件は、このことをを追認する形で指し示されたのである。
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