なぜ先生たちの授業には、フォローが少ないのか(2)
前々回に紹介した外山滋比古先生の本には、次のようなことも書いてある。
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人を育てるにはホメるに限る。ということは、あまり広く知られない。教師でも、教育とは叱ることなりと考える人が多い。
一クラスをA・Bに分けて、同人数、学力もほぼ同じにしておく。
テストをして、Aグループは点を見せず、各人に、よくできた、とデタラメにほめる。Bグループにはめいめい採点した答案を返す。
これを数回くりかえして、Aグループも採点してみると、Bグループよりずっとよい点になっている。
このように根拠がなくても、ホメられると成績がよくなることをピグマリオン効果という。
ギリシャの昔、ピグマリオンという伝説上の王様がいた。彫刻の名手で、あるとき彫った女人像がすばらしい美女。王はこれに恋し、結婚したいと神に祈る。祈りがとどいて彫刻が生身の女人となり、王は結婚して幸せになったという。ピグマリオン効果は、これにちなんでつけられたのである。(『リンゴも人生もキズがあるほど甘くなる』幻冬舎)
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ピグマリオン効果は、心理学をやった人にはおなじみのものだ。
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前回に、先生たちが「フォロー」が少ないのは、「フォローの言葉」を持っていないからだと書いた。
しかし、決定的なのは、自分の授業の方法論の中に「フォロー」が入っていないことなのだと思われる。
指導言(発問・指示・説明)と子供たちの活動だけで授業は成り立つと考えている。
ここに「フォロー」を入れてくる必然性が、自分の授業の方法論にないのである。
それが一番の理由だと思われる。
褒めることの必要は感じる。みんなも言っているから。
ときどき、褒める。
ただ、それだけなのである。
何がだめか。
自分の授業の方法論に「システム」としてフォローが入り込んでないのである。
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私は、山口の福山憲市先生を「フォローの天才だ」と思ってきた。
算数の割合の授業(140人の専科授業)で、平均99点を取らせることができたと聞いて、山口下関まで講座を聞きに行った。
その講座で、その時の授業を再現されるというのである。
すごかった。
とにかく感動した。
一流の授業人は、こんな授業をするのかと感じ入った。
私なりの視点で聞いていると、福山先生は、次のシステムが授業の中に張り巡らされている。
指導―活動―フォロー
その一つ一つが、徹底されている。
必ず福山先生の授業の中には、「フォロー」(福山先生がこのような言葉は使わないが)が畳みかけて出てくる。
天才的なフォローだと思われた。
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私の「味噌汁・ご飯」授業が目指すものは、福山先生みたいな「ごちそう」授業 ではない。
でも、このことから学ぶことは多い。
「味噌汁・ご飯」授業としての「日常授業」には、「日常授業」としてのシステムが必要である。
私達は、それを次のように考えている。
指導言―活動―フォロー
「フォロー」は、授業の中に必ず必要なものである。
これがなければ授業の効果は半減する。
そのくらいに必要なものである。
だから、授業の方法論の中にきちんと位置づける。
(くわしくは、『「味噌汁・ご飯」授業』(明治図書)を参照してほしい)
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外山滋比古さんは、再び書いている。
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ノーベル化学賞を受けた田中耕一さんもホメられたのがきっかけで大科学者になった。
小学5年生だかのとき、田中少年は理科の授業で、実験をしていた。担任の澤柿教誠先生は、生徒の机の間をまわっていた。
田中少年は先生に「これどうして、こうなるのですか」と実験について質問した。先生はびっくり、「先生にもよくわからない。キミ、すごいね」とホメた。
このひとことで、田中少年は科学志望をかため、その通りの道をすすみ、大業績をあげた。田中さん自身は、そのことをよく知っていた。
ノーベル賞を受けて帰国すると、空港から澤柿先生宅へ直行、受賞報告をしたといわれる。
ホメことばの力はかくも大きい。
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