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大津いじめ自殺事件~その6 嘘をついて、どんな未来が少年達にあるのだろう~

   大津いじめ自殺事件は、訴訟問題になっていく。
 今、市の教育委員会と学校が世論から袋だたきにあっている。
 彼等は、最初の段階からいかに自分たちを守っていくかという論理で組み立てていっているために、あのような無様な有り様を全国にさらしていく。
 多分委員会が主導権をとって、学校はそれに全部したがっているという筋書きなのであろう。
 こうしておかなければ、訴訟を闘えないというわけであろう。
 だから、「いじめは認めたが、自殺との関連は認められない」というおかしな論理を振りかざしているわけである。
 市長はとっくに「いじめ」が自殺を引き起こしていることを認めている。
 どう考えたって、市長の方が筋が通っている。
 ★
 ここで加害者の3人の生徒達がこぞって「あれは遊びだった!」と口裏を合わせ始めているようである。
 訴訟を闘わなくてはならないために、親たちがこのように口裏を合わせ始めたと推測できる。
 ★
 ここに文芸評論家加藤典洋の「新庄市で起こったマットいじめ殺人事件」について書いた文章がある。(『この時代の生き方』講談社 <まだ残されているセリフの二、三>)
 山形新聞から依頼されて書いた記事だが、掲載を拒否されたものである。
 この事件については、教育関係者は記憶に残っているであろう。
 一人の中学生がマットに頭から突っ込まれ、窒息死しているのに、容疑をかけられた少年全員が、これを否認したことで私たちの記憶に残っている。
 それも、事件の直後にはだいぶこれを認めたのに、あとで、家に帰り、しばらくしたら、全員、前言を翻し、その否認に転じたことである。
 
 加藤は、書いている。
   ★ ★ ★
  一人の少年がこれらの少年のうち、何人かにより、殺されたのは事実である。
 取り調べを受け、当初容疑の事実を認めたこれらの少年のうち、全員、あるいは
 何人かが嘘をついていることは、はっきりしている。彼らがばらばらにではなく、
 一致して否認に転じたこと、そこにばらつきがないことは、口裏を合わせる話し
 合いのあったことを予想させる。それが彼らの警察での取り調べ後、帰宅の後に
 生じているのは、それが子どもの手に負えることでないこと、そこに彼らの家族
 の意志が関与していることを、当然のことに、示しているだろう。
  わたしは彼らの警察での取り調べを受けた後、帰宅した夜のその彼らの家での、
 家族での話合いというのを、想像してみる。  
    いったいどんな具合に、親たる人と子は、話したのか。
  劇でいえば、これはとても、とてもくらい場面である。
 ★ ★ ★
   加藤自身も子どもの頃、新庄市で実際にいじめを受けたことがあることを語っている。
 大切なことは次のようなことだ。

 ★ ★ ★
  親が、子どもに、最低、まともな人間になってもらいたい、というのは人情だ
 ろう。しかし、そのための最低要件は、親が、子どもから見て最低、尊重に値す
 る人間として現れることである。
  経済学者の都留重人氏のお父さんは、氏が旧制高校で学生運動のため、つかま
 ったとき、自分で責任をとるべきこととしてなんら行動を起こさなかった。当時
 の旧制高校には無断欠席が何日か以上になると、退学の規定があり、その結果、
 つまり父親が学校に息子が逮捕されていることを通知すらしなかったため、都留
 氏は放免後、高校を退学になり、当時、ということは昭和10年前後、日本での
 上級校への進学の途を絶たれた。
  都留氏の父は、子に数百ドルを与え、アメリカへ行くことを許し、そして、そ
 の結果、わたし達はいま都留重人というスケールの大きな日本を代表する経済学
 者をもっている。
  というようなことを考えるにつれ、新庄でのできごとは、わたしをとても暗い
 気持ちにする。
  リンチ殺人が起こってしまったことはしかたがない。
  しかし、ここで嘘をついて、いったい、どんな未来が少年たちにあるだろう。
  一人の少年が殺され、未来をなくし、数人の少年が殺し、しかしまだありうる
 未来を、家族ぐるみの嘘で、なくしつつある。……
 ★ ★ ★

 加藤は厳しい指摘で、真実を語っている。 
  さすがに山形新聞は掲載できなかったであろう。
 おそらく、今回の事件も構図は同じだ。
 このような、暗い、暗い惨劇が起こっているのであろうか。

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