山形米沢のT小学校を訪れる
山形米沢のT校長先生から呼ばれて、T小学校を訪れた。
米沢は、上杉鷹山公である。
童門冬二さんの「上杉鷹山の経営学」(PHP研究所)を新幹線で再読しながら米沢へ向かった。
一度米沢へ行きたいと願っていたので、こんな機会を作っていただいたT校長先生に感謝。
東京から米沢まで2時間。
校長先生直々に米沢駅まで迎えに来てもらった。
5時間目の授業を全クラス見せていただくことになっている。
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落ち着いた学校である。
学校が全部きれいに整えられていて、さわやか。
教室を回りながら、ベテランの先生たちのクラスの習字が見事なのがすぐ目に付く。
子供たちの習字の作品を見れば、そのクラスの様子はすぐに分かる。
担任は、どうしても習字には手を抜いてしまうからである。
だから、子供たちは思い思いに勝手に字を書いてしまう。
また、ほとんどのクラスで時間割を前面に掲げてあって、それにきちんと時間が記されてある。
当たり前じゃないかと思われるだろうが、最近はほとんどのクラスがそうなっていない。
教室に流れている「時間」を統率するためには、まずこのことは絶対に必要である。
子供たちに1日のそれぞれの時間を明示し、記憶させなくてはならない。
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横浜でも1970年代には、このような子供たちがいて、落ち着いた教室で勉強をしていたものである。
あれから40年の歳月が経つ。
でも、このT小学校の子供たちは、そんな子供たちであった。
先生たちも実に落ち着いて授業をされていた。
うれしくなる光景だ。
ベテランと若い先生のバランスがとれていて、特に目立つのがベテランの先生たちの元気さ。
「ああっ、ベテランの先生ってこんなに元気なのだ!」
と改めて感じる。
私が目にしてきたベテランの先生たちの多くは、疲れ切って、疲弊した姿。
すっかり自信を失っている姿であった。
私が初任の頃は、確かにベテランの先生たちはこのように元気だったのである。
★
日本の中で、東北と北陸がこうして落ち着いた教育を行っている。
こうした教育が行えるのは、地域や家庭が安定し、保護者からの学校支援が行き届いているからである。
その土壌の上で、教師たちががんばればいい。
だから、学力も上がる。
考えてみれば当たり前のこと。
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私の講演には、T小学校の先生たちと近隣の先生たちを含めて61名。
集会室はぎっしり。
真剣に聞いていただく。
ありがたいことだ。
東北や北陸なども、4,5年後ベテランの先生たちが大量に退職されていく時期を迎える。
そこが勝負になる。
その世代交代がうまくいくかどうかなのだ。
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終わった後の懇親会で、さまざまな話を聞く。楽しかった。
校長先生や教頭先生や教務主任の先生たちが初任の先生や若い先生たちに投げかけられる言葉の端々に「優しさ」が感じられた。
育てようとされているのである。
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上杉鷹山公が藩主になった頃、日本は経済の高度成長期の頂点にあったが、やがて失速し、こんどは今までと全く対照的に低成長期に陥る。
日本もそのころは、もうかなり貨幣経済の社会になっていたのにも拘らず、土地から生まれる農作物だけを財源とする幕府や藩は、こういう経済状況に対応できず、極度の財政難に陥った。その幕府も藩もそろって、「財政再建のための行政(経営)改革」に狂奔した。
しかし、どこも、必ずしも成功しなかった。
米沢藩も財政が逼迫し、「大名家を幕府に返上しよう」というところまで追い詰められていた。
そこへ17歳の鷹山公の登場だった。
この若さでみごとに藩財政を立ち直らせてしまった。
鷹山は、
「経営改革の目的は、領民を富ませるためである」と明言し、その方法展開は「愛と信頼」でおこなおうとした。
江戸幕府や各藩の改革をみていて、それが必ずしも成功しないのは、この2つがかけているからだ、と鷹山は思っていた。
このように童門は書いている。
★
T小学校のどの教室にも、鷹山公の肖像画が掲げられていた。
そして、その肖像画には、次の言葉が書かれていた。
なせば成る なさねば成らぬ何事も 成らぬは人のなさぬなりけり
この言葉は、鷹山公が、実子の養育を担当する藩士に贈ったものである。
教育上の細かい注意事項を並べた上で、最後に付記されていたのがこの言葉になる。
「成らぬは人のなさぬなりけり」は厳しい言葉だ。
鷹山公は「必ず成し遂げてほしい」という思いから、あえて厳しくこのように願ったのであろう。
それほど教育は、厳しく大切なものであるという願いがこの言葉に込められている。
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