吉本隆明語る
4日の夜10時から3チャンネルで「吉本隆明語る」を見た。多分、吉本隆明さんが、テレビにこんなに長く登場するのは、初めてではないか。
吉本さんは、84歳。糖尿病で、目があまり見えなくて、歩くのもやっという状態で、講演には車いすでの参加であった。
吉本さんが何か遺言状のつもりで語るのだと思った。
吉本さんは、虚空を見つめるような感じで、ひたすら語り続けた。饒舌だった。
講演は、相変わらずへたくそで、言い淀み、言葉を言い換え、時間はひたすらに延びた。
1時間30分の講演時間が、延々と3時間に及んだ。でも、聞きに来た2000人の人たち(若い人たちがずいぶんいた)には、ほとんど分からなかったのではないかと思われた。
途中で、司会者の糸井重里が、止めに入った。そうでもしなければ、もっともっと語るのを止めなかったと思われた。
しかし、その必死さは、聞いている人たちの心を打ったのか、最後はみんなスタンディング・オベーションで拍手喝采であった。
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私が、学生運動で大きく躓いたとき、もし吉本隆明さんの本がなかったら、どのように転んでいるのかと思ってしまうのだ。
そのように吉本隆明さんは、私の人生の分岐点を支えてくれたのだと思う。
講演の中心になったのは、「芸術言語論」ということで難しい課題であった。
「言語の幹と根は、沈黙なんだ」と語ることには、聞いている人は、驚きではなかっただろうか。
「『芸術言語論』への覚書」(李白社)では、そこのところを次のように書いている。
「僕は言葉の本質について、こう考えます。言葉はコミュニケーションの手段や機能ではない。それは枝葉の問題であって、根幹は沈黙だよ、と。
沈黙とは、内心の言葉を主体とし、自己が自己と問答することです。自分が心の中で自分に言葉を発し、問いかけることが、まず根底にあるんです。
友人同士でひっきりなしにメールで、いつまでも他愛ないおしゃべりを続けていても、言葉の根も幹も育ちません。それは貧しい木の先についた、貧しい葉っぱのようなものです。
本質は沈黙にあるということ、そのことを徹底的に考えること。僕が若い人に言えるとしたら、それしかありません」
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10時から11時30分までの1時間30分。私は、メモを取りながらテレビを見た。
84歳になった吉本さんが、必死に語りかける姿を見ながら、違うことを考えていた。
「老いるとはこのようなことなのだ」と…。
私にも、このような時間がすぐにやってくるのである。
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