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頂からの、その降り方

   5億円詐欺容疑による小室哲哉の逮捕劇。

 絶頂を極めた金満生活から一転、金策に走り回る近年の窮乏生活が、さまざまな週刊誌で取り上げられている。

 96年から2年連続で高額納税者番付4位にランクイン。「100億円以上の金を持っていた」「LAの豪邸から自家用ジェットで東京のスタジオまで通っていた」などという話が伝えられる。

 小室自身も、絶頂期を振り返り「銀行の通帳は10ケタまで表示されないので、途中から分からなくなりました」と笑って答えていたと言う。

 「金の匂いをかぎつけて銀バエのように群がる連中も多かった。スタッフを引き連れてのラスベガス旅行ではカジノの軍資金まで振る舞うお大尽ぶりでした。また最初の妻と離婚後、華原朋美をはじめプロデュースした歌手らに片っ端から手をつけるなど女グセも乱れていた」(芸能関係者)

 母校の早実にも10億円を寄付し「小室哲哉記念ホール」を建てさせた。

 つまづきは、頂点を極めた直後から始まった。99年以降、CDの売り上げは急降下、メディア王のマードックと組んで100万ドルを出資した海外事業が70億円の損失を出して大コケ、01年からの吉本興業と契約したが、これも失敗した。

 さらに追い打ちをかけるように,01年に結婚、1年後に離婚した歌手の吉田麻美への7億円もの慰謝料がズシンとのしかかった。一括で払う能力がなく、04年から滞っていた。

 「最近は金策に走り回り、食うに事欠くようなありさまで奥さんと2人でファストフードを食べたり、カップラーメンをすする生活だったといいます」(芸能関係者)

 日刊ゲンダイ2008年11月4日掲載の内容である。

 

 最近のトップニュースの内容をまとめてみると、こういうことだ。

 天国と地獄を短い間に走り抜けたと形容できる生き方である。

 少なくとも、90年代の日本の音楽を引っ張った「時代の寵児」であったことは確実である。

 彼の音楽には馴染みがなかった私でさえ、2,3曲ぐらいすぐに思い出すことができる。それくらいに彼が音楽界に残した業績は偉大だったはずである。

 「ルーズな金銭感覚とふしだらな生活」と非難することは簡単だが(その通りだから仕方ないのだが)、あまりにも無残である。

 もう少しの時が経過すると、小室哲哉という存在さえも忘れ去られていく。

 私も一緒に歩き去ればいいのだが、何かがひっかかる。

 それは何なのだろうか……。

 ★

 思いだして、沢木耕太郎の「王の闇」(文春文庫)を引っ張り出してくる。

 「ライバルを倒し、記録に挑み、ひたすら戦い続けることで王座を手にした男たちも、やがてはその頂点から降りざるをえない時がやってくる。彼らの呻き、喘ぎ、呟き、そして沈黙が、今ふたたび『敗れざる者たち』の世界に反響する。久方ぶりに沢木耕太郎が贈る、勝負にまつわる男たちを描いた五つの短編」

と紹介がある本である。

 沢木は、あとがきでこう書いている。

「たとえ、それが日本アルプスの三千メートル級の山であろうと、ヒマラヤの八千メートル級の山であろうと、ひとたび山の頂に登ったあとは誰しもそこから降りていかなくてはならない。そして、その降り方は、登り方と同じく多様である。滑るように降りていく者もいれば、ゆっくり雪を踏みしめながら降りていく者もいる。頂から頂へと飛び移るようにして下降していく者もいれば、雪崩に巻き込まれて転落してしまう者もいるだろう。私が心を動かしたのは、頂からの、その降り方だった」

 小室も、頂に登り詰めていた。

 頂から頂へ飛び移るように降りていこうとしたのだろうか。

 いやいや、きっと頂からの降り方を想定していなかったと思う。

 私は、その頂からの降り方を「帰路」として考えてきたのだと思う。

 ★

 土曜日の朝の小室のニュースを見ながら、しばし女房との会話。

「小室は、きっと帰路を考えていなかったんだよ。そう思うね」

「小室はそうだろうけど、普通の人たちにとっては、帰路なんてないよ。一日一日を平凡に生きていくのだから」

「そうかな?誰にも自分の人生を生きるというのは『往路』と『帰路』があると思うんだけど……」

「普通の人は、そんなことなんか考えないよ」

 それで話は終わった。

 そして、女房はゴミ出しに行った。私は、インコの餌をかえた。

    

 

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